「いのちぼうにふろう」(1971年, 小林正樹監督) “Inn of Evil” https://eiga.com/movie/34833/

★★

今年、初映画は年始に観た「ニュー・シネマ・パラダイス」だった。 実は見ていない映画を告白する、というチキン・ゲームでの必勝手をまたひとつ失ってしまった。

音楽(武満徹)と撮影(岡崎宏三)はよかった。 とくに冒頭のテーマ、音量が小さくてかえって集中させられた。 フィルターがわりのすすき、画面を分割する柱。 話を聞く与太者たちが立ち位置を替える妙、など。

ただし、くどい。 山本圭演じる、将来を誓い合った娘が売り飛ばされた奉公は、純朴さが突き抜けることなく 単に間抜け側に出てしまっていてイライラさせるし(とくに最後の大捕物に至っても――こんな間抜け に命を張ったのか!と理解に苦しんだ)、また栗原小巻演じる一軒飯屋の娘も語りがぎょうぎょうしくてしらじらしい。 そう考えると、勝新の酔っぱらい語りは、勝新という地金を見せているだけかもしれないにしても、 整合性をもたらすのだろう。

安楽亭の親父(三代目中村翫右衛門――よかった)といい、「せびるのは一度じゃねえぜ」と諭す奉公先の主人といい、 ある種の父親ぽい存在がちらちら見え、かつそれらが正常に作動しており批判されないことが実は 心地よかったのかもしれない。